三菱UFJ「貸金庫事件」の犯人は、盗んだ金銭をFXに使っていたという報道があります。
具体的な取引は明らかになっていませんが、この記事では、FXなどのレバレッジ取引における、典型的な破滅パターンを紹介します。
そのうえで、レバレッジ取引がなぜ中毒性が高いのかを解説します。
「貸金庫事件」の犯人は盗んだ金銭をFXに
三菱UFJ「貸金庫事件」の犯人は、盗んだ金銭をFXに使っていたようです。
元行員は窃取した資金を「運用に使っていた」と説明しているという。主にはFX(外国為替証拠金取引)に利用していたようだ。おそらく運用で収益を上げて、こっそり返すつもりで手帖にメモを取っていたのだろう。
東洋経済ONLINE『三菱UFJ「貸金庫事件」で実在した”黒革の手帖” 』
「貸金庫事件」の犯人が、FXでどのような取引を行っていたのかは明らかになっていません。
この記事では、FXなどのレバレッジ取引での、典型的な破滅パターンを紹介します。
この事件の犯人も、同様のパターンに陥ったものと思われます。
そのうえで、レバレッジ取引は、なぜ中毒性が高いのかを説明します。
レバレッジ取引とは
レバレッジ取引とは、証券会社から借金して、株(信用取引)、為替(FX)、暗号資産などの金融商品を売買するというイメージです。
借金をして投資をするわけですから、レバレッジ取引はハイリスク・ハイリターンと言えます。
多額の損失を出すトレーダーの特徴
レバレッジ取引は、主に短期売買で行われます。
そこで、短期売買で損失を出すトレーダーの典型的なパターンを解説します。
損切りができない
損切りとは、買った銘柄が、見通しと異なり下がってしまったとき、評価益がマイナスの状態で売ることです。
株取引でいえば、
1,000円で買った株を、900円で売る
のが損切りです。
損切りが大事な理由は、損失の拡大を食い止めることができるからです。
主に短期売買で100億円超を稼いだテスタ氏は次のように語っています。
──初心者が陥りがちな失敗は?
テスタ 損切りできない人が多いです。(中略)株価が下がったということは、自分の想定通りに進んでいないので、そのトレードは終えて次に切り替えるべき。(以下略)
ザイ・オンライン『株で46億円を稼いだ投資家・テスタさんが「株初心者がやるべきこと」を伝授! 投資歴6年で“億り人”になれたトレードの秘訣や、注目している投資対象を直撃!』
しかし、損切りは、感情的にかなり難しいものです。
これは、行動経済学で繰り返し確認されている「損失回避バイアス」という現象です。
損失回避バイアスとは、利益の喜びと比較して、損失に対する不快感が極端に大きい傾向のことです。
その結果、投資家は、根拠もなくプラスになることを期待して、損切りを避けようとします。
ナンピンをしてしまう
ナンピンとは、株価が下がった場合に、追加で購入して平均購入単価を下げることです。
たとえば、1,000円の株を100株買ったとしましょう。
そして、その株が900円まで下がったとします。
評価益がプラスになるためには、900円から1,000円まで、100円上がる必要があります。
しかし、もし900円で100株を追加で購入すれば、買値の平均値は950円になります。
つまり、900円から50円上がってくれれば含み損が消えることになります。
損失回避バイアスは、損失を極端に嫌う傾向でした。
そのため、早く含み損が消えてくれるように見えるナンピンは、安易に採用されがちです。
しかし、デイトレで230億円を稼いだcis氏は、ナンピンを否定しています。
買った株が下がったとき、追加で買い増しするのは最悪の買い方だ。(中略)下がったときの買い増しは、失敗を認めず、粘り腰でなんとか逆転勝ちに持ち込めないかという発想である。うまくいくこともあるが、傷が深くなる可能性のほうが高い。(以下略)
ザイ・オンライン『伝説の投資家・cisさんが語る「株で勝つために必要な“3つの鉄則”」とは? 資産230億円を実現したcisさんの「シンプルだけど大事な“株の鉄則”」を心に刻め!』
(太字強調は筆者)
cis氏が「傷が深くなる」というのは、株価がさらに下がった場合のことです。
つまり、当初は100株だったのが、ナンピンすることで合計200株になっています。
もし下がった場合、2倍のスピードで損失が増えていくことになります。
つまり、損切りができないだけでも損失が拡大しやすいのに、ナンピンまですると、火に油を注ぐことになります。
レバレッジとナンピン
損失回避バイアスとレバレッジが結びつくことで、破滅的な結果となります。
ナンピンをした後、株価がさらに下がった場合、含み損が拡大し、損失回避バイアスがますます強くなります。
その結果、よりいっそう損切りができなくなります。
追い詰められた投資家は、「頼むから上がってくれ」と祈りながら、レバレッジ取引で多額のナンピンをすることになります。
無謀だと思われるでしょうが、この状態になると、投資家はもはや正常な判断能力を失っています。
追加保証金
レバレッジ取引で損失が膨らんだ場合、投資家は追加保証金(追証)を証券会社に入金する必要があります。
追証は、損失が決められた限度を超えた場合に、証券会社が投資家に追加で要求する担保です。
どういうことかと言うと、レバレッジ取引によって、顧客が大損してしまうと、損失額が口座残高を超える場合があります。
すると、証券会社が一時的にその損失を立て替える必要が出てきます。
しかし、回収するのは手間ですし、すべての顧客に返済能力があるわけではありません。
そのため、追加の担保を取ることによって、回収を容易にするわけです。
強制決済
もし、追証を期限までに入金できない場合、保有銘柄が強制決済されます。
このような仕組みがあるため、損失が無限に拡大するわけではありません。
そのため、レバレッジ取引で多額の借金が発生するという事態は、世間のイメージほど多くありません。
しかし、それは証券会社に対する借金の話です。
つまり、強制決済されれば、多額の損失が確定するわけですから、投資家には強烈な損失回避バイアスが発生します。
したがって、強制決済を嫌って、消費者金融や知人など、別の所から借金をして、追証に充てる可能性は十分あります。
そして、「貸金庫事件」では、その「借金」の出どころが、銀行の貸金庫だったと推測されます。
地獄のループ
前掲の報道によると、犯人は4年半にわたり、貸金庫から盗んでいたようです。
そして、記事では「運用で収益を上げて、こっそり返すつもりで手帖にメモを取っていたのでは」と推測しています。
もし貸金庫から「借金」していたのであれば、いつかは「返済」しなければいけません。
しかし、給料やボーナスで運用していたのでは、いつまで経っても「返済」できないとなると、また貸金庫から「借金」するしかありません。
しかし、ほとんどの投資家は、相場の荒波の中を、cis氏やテスタ氏のように上手く立ち回ることはできません。
結果として、貸金庫から「借金」をして、溶かして、また「借金」をして、溶かして…、のループに嵌まってしまったのだと思われます。
手を出したら人生終了?
損失回避バイアスの強さは個人差があり、cis氏やテスタ氏はこのバイアスがあまりないようです。
しかし、損失回避バイアスが強い人の場合、レバレッジ取引に手を出した時点で人生が詰んでしまうリスクがあります。
たとえ大損しても、自分に適性がないことを悟って、トレードから足を洗うことができれば、まだ軽傷で済みます。
問題は、損失回避バイアスが強い人ほど、「取り返したい」という思いが強く、取引を続けてしまうことです。
つまり、単発の取引だけではなく、これまでの取引全体に対する損失回避バイアスがはたらき、
「負けたままでは悔しい。生涯収支がプラスになるまでやめたくない」
と考えてしまうのです。
しかし、短期売買において損切りが重要である以上、損失回避バイアスが強い人は、おそらく負け続けるでしょう。
その結果、相場でお金を失い続ける人生になるおそれがあります。
対策はそもそもやらないこと
損失回避バイアスの強さは、実際に損失を体験して初めてわかるものです。
つまり、自分の損失回避バイアスが強く、トレードに向いていないとわかったときには、すでに損失が積み重なっており、後戻りできない状態かもしれません。
そうならないためには、そもそも手を出さない以外の対策がありません。
このように、レバレッジ取引は、損失回避バイアスとレバレッジが混ざり合って強烈な中毒性が合成されます。
まとめ
・三菱UFJ「貸金庫事件」の犯人は、盗んだ金銭をFXに使っていたという報道がある。
・FXなどのレバレッジ取引は、損失回避バイアスとレバレッジの相乗効果で、巨額の損失を生み出しうる。
・損失回避バイアスのために、負け続けていても、トレードをやめるのが難しくなってしまう。
・対策は、そもそもやらないこと
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