この記事では、まず、なぜ株式がインフレに強い資産と言われているのかを説明します。
その理由は主に、次の3点です。
①物価に比例する利益の増加
②債務の負担軽減
③人件費の負担軽減
その上で、これらのメリットがあるにもかかわらず、インフレを手がかりに株取引で利益を出すのは難しいことを解説します。
【基本】物価に比例する利益の増加
次のような会社を考えてみましょう。
1個1万円の製品を10万個販売して、10億円の売上があるとします。
コストは1個あたり9,000円で、作った製品はすべて売れるものとします。
そうすると、費用の総額は9億円です。
したがって、10億円の売上から費用9億円を引いて、利益は1億円です。
ある日、インフレが起きて、物価が2倍になったとします。
利益はどうなるでしょう?
仮に販売個数10万個が変わらないとしましょう。
物価が2倍ですから、製品価格は2万円になります。
よって、売上は20億円です。
そして、人件費や材料費などのコストも多くの場合、物価に比例して増加すると考えられます。
その結果、費用も2倍になります。
つまり、1個あたり18,000円のコストで、費用の総額は18億円です。
したがって、売上20億円から費用18億円を引いて、2億円が利益です。
インフレにより、利益が2倍になりましたね。
利益が2倍になれば、株価も2倍になるでしょう。
これが、株式がインフレに強い基本的な仕組みです。
かなり単純化していますが、イメージは掴めたと思います。
しかし、「そんな簡単に値上げはできない」とか「値上げして販売個数が同じという前提はおかしい」と思われた方もあると思います。
たしかに、短期的には消費者が割高感を感じて、買い控えることもあるでしょう(アンカリング効果)。
しかし、長期的には価格上昇に消費者が順応すると考えられます。
債務の負担軽減
先ほどの会社に2億円の借金があったとします。
これは金利を含んでいるものとします(たとえば、1.9億円借りて、0.1億円が金利)。
インフレの前の利益が1億円ですから、2年分の利益で返済できることになります。
では、インフレ後はどうなるでしょう。
前述のとおり、インフレ後の利益は2億円です。
一方、借金の額は、契約で決まっていますから、インフレ後でも返済額は変わりません。
つまり、借金は2億円のままです。
したがって、インフレ後は、1年分の利益で借金が返済できることになります。
利益が増えたと言っても、単に物価に比例して増えただけで、特別な企業努力をしたわけではありません。
それでも1年分の利益で返済できるようになっています。
このように、インフレは債務者にとって有利です。
企業は借金をして運転資金を確保することが多いですから、インフレは有利に働きます。
インフレが予想できる場合の債権者の対応
インフレが債務者である企業に有利に働くことを確認しました。
逆に言えば、債権者である金融機関には不利に作用することになります。
では、インフレが予想できる場合、債権者は黙ってインフレ分の負担を受け入れるのでしょうか。
そんなことはないはずです。
すでに結んでしまった契約については仕方がないですが、新たに結ぶ契約については、将来のインフレ率を予想して金利を設定するでしょう。
したがって、予想できるインフレであれば、インフレ分が金利に反映されるため、必ずしも債務者に有利にならないと考えられています(これを経済学で「フィッシャー効果」といいます)。
つまり、インフレが企業に有利にはたらくのは、予想外のインフレの場合です。
人件費の負担軽減
一般に、企業と労働者を比べると、企業のほうが物価や賃金の動向に敏感です。
そのため、インフレの傾向が確認されると、企業は早い段階で値上げやコストカットに動きます。
一方、労働者がインフレに気づくのは、企業に比べて遅れる傾向があると考えられます。
多くの人がインフレに気づくのは、日用品が値上がりし、マスコミが取り上げ始めて、ようやく、といったあたりではないでしょうか。
経営者としては、賃金を上げなくても問題ないのであれば、あえて上げる必要はありません。
結果として、物価の上昇に比べて、賃金はゆっくりと上昇することになります。
先ほどの例で言えば、「物価(販売価格)が2倍になって、売上は2倍になっているが、人件費は同じ」になるわけですから、企業にとって有利です。
このように、労働者は、インフレを考慮した実質的な賃金ではなく、額面の賃金で判断してしまう傾向があります(これを経済学で「貨幣錯覚」といいます)。
そのため、インフレ局面では、企業は、労働者に実質的に低い賃金で働いてもらうことができます。
しかし、労働者もいつかはインフレに気づいて、賃上げ要求や転職を行いますから、長期的には適正な賃金に収束します。
インフレは「買い」なのか?
以上のように、一般的には、インフレは業績拡大を通じて株価を押し上げる効果があります。
ところで、日経平均は、2024年2月22日にバブル期の史上最高値を34年ぶりに更新し、2024年3月4日には史上初の4万円台を記録しました。
これも、長く続いたデフレを脱却したのが一因でしょう。
では、「今後もインフレが続くだろうから、日本株は買い」で良いのでしょうか。
そう単純ではありません。
株価の先見性
株価は、将来を織り込んで動く性質があります。
これを「株価の先見性」といいます。
つまり、インフレが予想されて、業績拡大が期待できるのであれば、実際にインフレが起こる前から株価は上昇します。
したがって、インフレを材料に株を買うのであれば、それは市場が織り込んでいる以上のインフレの発生に賭けていることになります。
市場を上回る分析をするのは、簡単なことではありません。
金融政策
中央銀行(日本銀行や米国のFRBなど)は、バブルの発生を食い止めるために、過度なインフレが予想されると、金融引き締めを行います。
一般的に、金融引き締めは景気や株価に悪影響を与えます。
そのため、投資家は、インフレ率を予想し、それに対する金融政策まで読んで投資戦略を練るものです。
このように、インフレは、金融政策とも関連し、株価に対する影響は複雑です。
インフレを材料に利益を出すためには、高度な分析が必要といえます。
株式のリターンの源泉はリスク・プレミアム
株式に投資するメリットは、インフレ対策というより、単純に他の資産に比べてリターンが大きいからと考えるのが妥当だと思います。
経済学では、株式の高いリターンの主な源泉は、リスク・プレミアムと考えられています。
リスク・プレミアムとは、「ビジネスのリスクを受け入れたことに対する報酬」というイメージです。
リスク・プレミアムについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
まとめ
・企業の利益はインフレと比例的に増加するため、株式はインフレに強い。
・予想外のインフレは、債務負担を軽減するため、企業に有利に働く。
・労働者はインフレに鈍感であるため、インフレ局面では、企業は実質的に人件費の負担が軽減される。
・インフレには、業績に対するメリットがあるものの、株価の先見性や、金融政策の変更などを考慮すると、実際に株取引で利益を出すのは難しい。
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