問題の背景:オルカンvsS&P論争
オルカンvsS&P論争とは、2つの投資信託
・eMaxis Slim 全世界株式オールカントリー(通称:オルカン)
・eMaxis Slim 米国株式(S&P500)
のどちらが良いのかという議論です。
私もよく視聴している、人気インフルエンサーの両学長の動画によると、S&P派(米国株派)の主張とオルカン派(全世界株派)の主張は次のとおりです。
【米国株派の主張】
- 全世界株には低成長の国を含む
- 新興国の成長も米国市場で取り込める
- 世界分散はリスク低減にならない
- 唯一無二の長い歴史がある
【全世界株派の主張】
- 過去に米国株が停滞していた期間もある。
- 米国一強が今後も続くとは限らない
- インデックス投資の生みの親も全世界株派
上記の動画内で、「経済学的には全世界株が正解」と解説されています。
しかし、動画内では、詳しい理由は説明されていません。
この記事では、なぜ経済学者が全世界株を推しているのかをできるだけわかりやすく解説したいと思います。
回答:米国の成長性は株価に織り込まれているから
冒頭に挙げた米国株派の主張の中に、
①全世界株には低成長の国を含む
というものがありました。これは、米国株が他の国に比べて成長性が高いという趣旨です。
具体的には、米国には次のような強みがあります。
- 世界最大の経済大国で、GDPは世界最大
- 人口増加国
- 自社株買いが多いなど、株主を重視する文化や制度
- 世界のイノベーションの中心地
おそらく、これらがS&Pに投資する最大の理由だと思います。
この記事では、米国の高い成長性を中心に考察したいと思います。
経済学が、S&Pよりオルカン推しな理由は、
「米国の高い成長性は、すでに株価に織り込まれているから」
です。
これは、米国経済やS&Pの価格を分析して導き出したものではなく、インデックス投資の考え方からくるものです。
では、そのインデックス投資の考え方とはどのようなものでしょうか。
それを理解するにあたり、「織り込む」という言葉がキーワードになります。
「織り込む」とは
「織り込む」とは、新たな情報が株価に反映されることです。
織り込まれる情報としては、決算発表や不祥事といった個別企業に関することから、金融政策や選挙、災害といった経済全体に関することまで、株価に影響することはすべてです。
特に、注目されている企業や指標の場合、予測や推測に基づいて株価が織り込まれます。
相場の格言に「噂で買って事実で売れ」というものまであります。
つまり、「噂の段階ですでに好決算は織り込み済みなのだから、発表されたらもう旨味はない」というところでしょうか。
たとえば、2024年8月にNVIDIAの決算が話題になりました。
アナリストの平均予想を上回るかなりの好決算だったのですが、NVIDIAの株価は、決算発表後の取引で、前日比マイナスで終わっています。
つまり、その程度の好決算は織り込み済みどころか、市場の期待に届いていなかったわけです。
このように、株式市場では、決算発表で業績が確定する前に、株価が利用可能な情報を織り込んでいく習性があります。
すべてが織り込まれた世界:効率的市場仮説
インデックス投資では、世の中のあらゆる情報は、すでに株価に織り込まれていると考えます。
これを効率的市場仮説と言います。
効率的市場仮説が成立している世界を想像してみましょう。
この場合、NVIDIAのような高成長企業は、過去の実績や専門家の分析により、すでに好決算が織り込まれています。
そのため、予想通りの好決算が出ても株価は反応しません。
逆に、たとえ一般的には良い決算であっても、予想に届かなければ株価は下がることになります。
そして、株価が上がるためには、他の企業にはとても真似できないような、かなり高いハードルを超える必要があります。
一方で、赤字続きで誰も期待していない企業は、それなりの株価になります。
そのため、赤字決算を出しても「あの会社はそんなものだ」という感じで、株価はそれほど反応しません。
予想外に黒字を出そうものなら、急騰することになります。
つまり、NVIDIAに比べれば、かなり低いハードルが設定されているわけです。
つまり、効率的市場仮説の下では、各企業のジャンプ力(成長性)に合わせて、超えられるか超えられないかギリギリの高さにハードル(株価)が設定されています。
そのため、投資家からすると、どの企業もハードルを超える確率は同じです。
言い換えれば、どの株を買っても同じなのです。
そうであれば、全世界株を買って、なるべくリスク分散した方が良い、という結論になります。
これがインデックス投資の背後にある経済理論のイメージです。
S&P投資と効率的市場仮説
効率的市場仮説の下では、各企業のジャンプ力(成長性)に合わせて、超えられるか超えられないかギリギリの高さにハードル(株価)が設定されているのでした。
それは、米国企業でもその他の国の企業でも変わりません。
だとすると、米国株を買っても、他の国の株を買っても予想されるパフォーマンスは変わりません。
もちろん事後的にパフォーマンスに差が出ることはあるでしょう。
しかし、それは結果論であり、予測不可能です。
もしかすると、GDPは世界最大、人口増加国、投資家重視の制度や文化、イノーベーションの多さといった抽象的な要因が、株価に織り込まれるという発想に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これらの要因は周知の事実です。
株価に織り込まれないと考える理由はありません。
みなさんがS&P500の投資信託を購入すること自体が、まさに織り込んでいくプロセスと言えます。
抽象的な要因だからこそ、個別企業ではなく、米国企業全体に投資するわけですね。
要するに、効率的市場仮説の下では、米国株の成長性は織り込み済みであり、S&P投資に優位性はありません。
そもそも効率的市場仮説は成立しているのか?
ここまでの議論を聞いて、S&P派の方は、
「効率的市場仮説なんてデタラメだ」
「根拠はあるのか?」
などと言いたくなると思います。
しかし、インデックス投資自体が、効率的市場仮説を前提としています。
前提を否定してしまうと、矛盾に陥ってしまいます。
それでも、「矛盾なんてどうでもいい。儲かればいいんだ」とおっしゃるかもしれません。
そういう方のために、インデックス投資で効率的市場仮説を否定するとどの様に矛盾するか、本当に儲かるのかを考えてみましょう。
実は、効率的市場仮説を提唱した経済学者は、その貢献でノーベル賞を受賞しています。
それほど由緒ある理論なのですが、現実に成立しているかと言うと、経済学の研究レベルでも、私の体感レベルでも、かなり疑問のあるところです。
とはいえ、株式市場はあまりにも複雑です。
厳密に成立している理論など存在せず、大雑把にでも当てはまれば十分です。
いずれにしろ、確かに効率的市場仮説が成立していないのなら、S&P投資が有力である可能性はあります。
そして、効率的市場仮説が成立していないという経済学の研究はたくさんあります。
しかし、単に効率的市場仮説が成立していないというだけでは、S&Pに投資する十分な理由になりません。
それを次に確認しましょう。
ハードルは高すぎるのか、低すぎるのか
効率的市場仮説が成立していないということは、情報が完全には織り込まれていないということです。
その結果、各企業のジャンプ力(成長性)とそのハードル(株価)の高さが、マッチしていないことになります。
注意すべきことは、「マッチしていない」と言っているだけですから、ハードルが高すぎるのか、低すぎるのかは個別に検討が必要です。
S&P派は米国株推しなわけですから、米国企業のジャンプ力(成長性)に比べて、ハードル(株価)が低く設定されていると考えているのでしょう。
言い換えれば、「米国株は割安だ」ということです。
しかし、これは当たり前ではなく、当然、割高である可能性も考える必要があります。
しかし、NVIDIAの例を見ても分かる通り、株価の割安、割高を正確に判断するのはとても難しいことです。
しかも、米国の強みである、GDP、人口、制度や文化、イノーベーションの多さといった抽象的な要因が、どの程度株価に織り込まれているか見極めるのは、ほとんど不可能のように思われます。
しかも、オルカンとS&Pの比較をしているのですから、米国株だけを分析しても不十分です。
つまり、米国に加えて、米国以外のオルカン構成国の割安、割高を分析し、どちらが有利かを判断する、ということになります。
つまり、効率的市場仮説が成立していないとしても、市場が情報を織り込むこと自体は発生します。
そのため、情報の織り込み具合を判断する必要があり、それは簡単なことではありません。
そんな難しいことを考えたくないから、インデックス投資をしている方が多いはずです。
「それでは話が違う」と感じられるでしょう。
分析力があるならもっといい投資法がある
もしかすると、S&P派の中に、
「米国やその他のオルカン構成国の割安、割高を分析し、やはり米国株が有利だとわかった」
と豪語される方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、そのような高度な分析力をお持ちの方は、そもそもインデックス投資をする必要がありません。
もっと、効率よく資産を増やせる投資法がいくらでもあるからです。
たとえば、オルカン構成国のタイミング投資です。
米国にこだわらず、割安の国のファンドを買い、割高になったら売ることで、単にS&Pを持ち続けるより高いパフォーマンスを狙えるはずです。
あるいは、個別株投資をしてもいいかもしれません。
S&P500は米国の優良企業500社です。
500社全体の分析ができるのであれば、その中の数社の分析は簡単なはずです。
NVIDIAやTeslaのような成長株を見つけ出して、株価が上る前に投資すれば、S&Pなど比べ物にならないほどの利益になるはずです。
考え方の根本的な違い
インデックス投資は、「市場は読めない」と想定しています。
つまり、世の中の情報はすべて株価に反映されていて、これからどの株が上がるのか、下がるのか、まったく予想できないという前提です。
一方で、S&P派は、「米国株が有利だ」という意味で、「市場が読める」と考えているわけです。
つまり、「市場が読める」と考えているS&P派が、「市場は読めない」という前提のインデックス投資を採用していることになります。
その結果、「読める」のであればもっと効率的な手法があるし、「読めない」のであればオルカンを買わないとおかしい、というジレンマに陥るわけです。
これが効率的市場仮説を否定したことによる矛盾です。
補足
インデックス投資で、「市場は読めない」と考えられているのであれば、「そもそも、オルカンが長期で右肩上がりかどうかも読めないのではないか」と心配される方があるかもしれません。
結論としては、経済学でも、オルカンやS&Pは長期で右肩上がりと考えられています。
これは、リスク・プレミアムという概念で説明されます。
リスク・プレミアムの話まですると、長くなりすぎるので省略しました。
リスク・プレミアムについては、こちらの記事を御覧ください。
まとめ
・インデックス投資の前提となっている効率的市場仮説の下では、米国企業の成長性は株価に織り込まれており、米国株に優位性はない。
・効率的市場仮説が成立していないとしても、米国株の割高、割安を判断しなければならず、それだけの高度な分析力があるならインデックス投資をする必要がない。
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